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肺がんコンパクトパネル

肺がんに重要な遺伝子に特化した、高感度な一括遺伝子検査パネルの開発に取り組んでいます。既に薬剤が利用可能なEGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET遺伝子と、近い将来分子標的治療薬の上市が予定されている数種類のターゲット遺伝子を測定対象としています。薬事承認取得を目指し、鋭意開発を進めています。

開発背景

肺がんについて

肺がんは日本におけるがん死亡の第1位であり、年間約7万人の方が亡くなっています(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」より)。診断後の予後を示す5年相対生存率*1も34.9%と極めて低く(参考:大腸がん 71.4%、胃がん 66.6%、乳がん 92.3%)、大きなアンメットニーズが存在しています。

*1 5年相対生存率:あるがんと診断された場合、治療により5年後どれぐらい生命を維持できるかを示す指標。がんと診断された人のうち、5年後に生存している人の割合が、全日本人で5年後に生存している人の割合に比べてどのくらい低いかで表されます。

図1 『2019年 部位別がん死亡数』(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(人口動態統計))

肺がんの遺伝子異常と治療方針

肺がんは肺の細胞の遺伝子に傷(変異)がつくことで生じます。肺がんの原因として有名なタバコも、遺伝子変異を誘導する因子の1つです。これら変異する遺伝子の種類は、患者ごとに異なります。患者ごとにどの遺伝子が変異しているかを調べることは治療薬の選択に極めて重要であり、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインにおいても、進行癌の治療方針の決定にあたり遺伝子検査によるコンパニオン診断を行うことが推奨されています。
 肺がんはその特徴から、非小細胞肺癌(肺がんの約85%)と小細胞肺癌(約15%)の2種類に分類されます。非小細胞肺癌で生じる遺伝子変異については、全がんの中でも特に研究が進んでおり、代表的ドライバー遺伝子*2である EGFR 遺伝子変異、BRAF 遺伝子変異、ROS1 融合遺伝子、ALK 融合遺伝子、MET エクソン14欠失変異などをターゲットとした分子標的治療薬が次々と上市され、遺伝子検査に基づく薬剤選択の重要性が高まっています。

*2 ドライバー遺伝子:細胞のがん化に直接的に寄与することが明らかとなっている遺伝子。

図2 『Ⅳ期非小細胞肺癌のバイオマーカーと治療方針』

肺がんの遺伝子検査

これまでの肺がん遺伝子検査は、前述のような複数のドライバー遺伝子の変異を一つ一つ個々の検査で調べるものでした。しかし、このようなやり方は、要求される検体の大きさ・量(検査数分の多量の検体が必要)、作業負担の増大などの観点から限界を迎えつつあります。さらに今後も、HER2やKRASなど新規の遺伝子変異をターゲットとした分子標的薬の臨床応用が見込まれており、それらを含めたすべての肺がんドライバー遺伝子を個別の検査で対応することは極めて困難であると考えられます。
近年、遺伝子研究の分野では、DNA配列同定(シーケンス)技術の飛躍的な進歩により、複数の遺伝子の配列を一括で低コストに調べることが可能になってきました。この技術は次世代シーケンス(Next Generation Sequence: NGS)と呼ばれ、研究のみならず、医療分野にも応用が始まっています。肺がん診療においても、NGS技術を用いたドライバー遺伝子変異の効率的な一括検査(マルチコンパニオン診断遺伝子パネル検査 )への期待が高まっています。

『一括検査が期待される肺がんドライバー遺伝子変異一覧』(2021年9月現在)

既に日本で臨床応用(保険適用)されているもの

EGFR L858R、
エクソン19欠失
ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダコミチニブ
ALK融合遺伝子
クリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ロルラチニブ、ブリグチニブ
ROS1融合遺伝子
クリゾチニブ、エヌトレクチニブ
BRAF V600E
ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法
METエクソン14欠失
テポチニブ、カプマチニブ
NTRK1-3融合遺伝子
エヌトレクチニブ、ラロトレクチニブ

今後臨床応用(保険適用)される可能性があるもの(治験中)

RET融合遺伝子
セルペルカチニブ、プラルセチニブなど
EGFRエクソン20挿入
モボセルチニブ、アミバンタマブなど
HER2遺伝子変異
トラスツズマブ デルクステカンなど
KRAS G12C遺伝子変異
ソトラシブなど

特徴

肺がんコンパクトパネルのめざすもの

前述のような臨床ニーズを背景に、DNAチップ研究所では、奈良先端科学技術大学院大学 加藤菊也客員教授 および 大阪国際がんセンターとの共同研究により、NGS技術を用いた肺がん遺伝子マルチコンパニオン診断検査「肺がんコンパクトパネル」の開発を進めています。肺がんコンパクトパネルは既に臨床応用されている分子標的薬だけでなく、現在開発中の薬剤のターゲット遺伝子変異も検査対象としています。肺がんで特に重要な遺伝子領域に絞り込んでDNA配列を読み取るため、検体中のごく微量な変異を高感度に検出することが可能です。感度が高いことで、より多くの患者に適切な薬剤が投与できるようになると期待されます。加えて、従来遺伝子検査が難しいとされてきたがん細胞の割合が少ない検体(細胞診検体など)を検査対象にできるため、検体の有効活用が可能となります。その結果、患者にとって負担の大きい、(検査用検体取得のための)再生検のリスクを減らすことができると期待されます。

肺がんコンパクトパネルの特徴

1.肺がんの治療薬選択に重要な遺伝子を一括で検出

【DNA】
EGFR遺伝子変異(エクソン19欠失,L858R,L861Q、G709X、G719X、エクソン20挿入など)
BRAF遺伝子変異(V600Eなど)
KRAS遺伝子変異(G12X、G13Xなど)
MET遺伝子変異(エクソン14スキッピング変異など)
HER2遺伝子変異(エクソン20挿入など)
【RNA】
ALK融合遺伝子
ROS1融合遺伝子
METエクソン14スキッピング
RET融合遺伝子

2.高い感度

重要な遺伝子のみを重点的にシーケンスすることで、検体中にごく僅かな変異しか含まれない場合でも検出が可能です。

3.新規ターゲットの追加が容易なモジュール構造

将来、新しい遺伝子ターゲットの追加が必要となる場合があります。肺がんコンパクトパネルでは、既に確立したモジュール(反応単位)とは別のモジュールとして測定系が構築できます。これにより、従来の測定ターゲットの検査精度を維持したまま、容易に新規ターゲットを追加することができます。

4.国産の肺がん遺伝子パネル

株式会社DNAチップ研究所では、日本の肺がん医療にマッチした、信頼あるNGS遺伝子検査の開発を目指しています。薬事承認されれば肺がんパネルとしては国産初となります。

遺伝子検査用の検体は通常、気管支鏡による肺生検で採取されます。肺生検は患者の負担が非常に大きい検査であり、なるべく1回の生検で遺伝子検査に耐えうる良質な検体を採取したいというニーズがあります。

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肺生検で得られる組織検体は非常に量が少なく、十分ながん細胞が含まれないことも多いため、従来の遺伝子検査では実施が難しいことがあります。

➡ 高感度な肺がんコンパクトパネルを用いることで、がん細胞が少ない検体や通常活用されない細胞診検体でも検査が可能になることが期待されます。

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従来の遺伝子検査では、良質なDNA/RNA検体を要求するため、微量な検体や分解が進んでいるような検体では検査できないケースが存在していました。

➡ 肺がんコンパクトパネルでは、従来より微量な検体や分解が進んだ検体でも精度の高い検査が可能です。

矢印

従来のDNAシーケンス検査では、ターゲットとする領域が広いため、本当に必要なターゲット(薬剤選択に重要なDNA変異箇所)について、十分な読み取り数が確保できず、感度が不十分でした。

➡ 肺がんコンパクトパネルでは、肺がんの薬剤選択に重要な遺伝子のみに絞り込んで重点的にシーケンスすることで、高感度を達成しています。

矢印

肺がんで特に重要な遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET,HER2,KRAS)の変異・融合遺伝子を検出します。

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図3 『肺がん遺伝子検査の課題と肺がんコンパクトパネルの特徴』

研究成果

研究テーマ

肺がん細胞診検体を対象とした肺がんコンパクトパネル有用性検証試験
(聖マリアンナ医科大学・呼吸器内科との共同研究)

背景

肺がんを対象とした病理検査や遺伝子パネル検査は、気管支鏡生検で採取した「がん組織片」のホルマリン固定パラフィン包埋検体( FFPE検体 )を用いた検査が主流となっています。しかし、患者の状態やがんの部位によっては、検査に必要な量のがん組織が得られないことがあります。また、FFPE 固定は検査対象であるDNAおよびRNAの品質を低下させるため、検査が困難になるケースも生じています。
一方、日常診療ではそのようながん組織片だけでなく、胸水や気管支ブラシによる擦過、リンパ節穿刺などで得られる「細胞診検体」を用いた病理検査も実施されています。細胞診検体は組織片より簡便に、早く、がん細胞の存在を確認することができるため、検査の迅速性の点で有用です。また、組織片の採取が困難な場合でも細胞診検体であれば採取できるというケースもあります。さらには、細胞診検体からは(適切に処理すれば)良質なDNA/RNAが得られることもわかっています。このような特徴から細胞診検体は遺伝子パネル検査に供する検体としてその活用が期待されているものの、現状実臨床ではほとんど利用されていません。活用が進まない理由として、細胞診検体では血液細胞などの正常細胞の混入が起こりやすく、検体に含まれるがん細胞の割合が少なくなってしまう恐れがあること(従来より感度の高い検査が必要となる)、さらには細胞診検体から質のよいDNA/RNAを得るには手間がかかること(採取後すぐに細胞を分離して凍結しなければならない)などが考えられます。
そこでDNAチップ研究所では、高感度遺伝子検査である「肺がんコンパクトパネル」と、常温で検体のDNA/RNAの安定化が可能な検体保存容器「GM管」(合同会社ジーンメトリックス社製品)を組み合わせることで、細胞診検体を対象とした遺伝子パネル検査が可能となると考えました。当社はその有用性について評価を行うべく、聖マリアンナ医科大学・呼吸器内科と共同研究契約を締結し、臨床研究を進めています。

試験内容

対象 1.肺がんの疑いで細胞診あるいは組織診断を要する患者(20歳以上)
2.参加について被験者本人から文書にて同意が得られた患者
1かつ2のうち、組織診にて腺がんが確定し、かつ細胞診でがん細胞の存在が確認できた症例
試験期間: 2020年6月~2021年12月
主要評価項目: 細胞診検体を用いた肺がんコンパクトパネル検査成功率
副次的評価項目: 保険診療検査(FFPE組織) と 肺がんコンパクトパネル検査(細胞診)との一致率
保険診療検査(FFPE組織) と 肺がんコンパクトパネル検査(FFPE組織)との一致率
細胞診検体の採取法別の解析成功率 など
検体採取場所: 聖マリアンナ医科大学・呼吸器内科
細胞診検体採取法: GM管(合同会社ジーンメトリックス社製品)
遺伝子検査の実施: 株式会社DNAチップ研究所

図4 『肺がん細胞診検体を対象とした肺がんコンパクトパネル有用性検証試験の概要』

結果の概要 (※中間解析結果:第61回日本肺癌学会にて発表)

中間解析時点での解析症例数は全38例で、細胞診検体の採取法は経気管支生検(TBB)時のブラシが26例、経気管支針生検(TBNA)が6例、その他(胸腔鏡下生検時のブラシなど)が6例でした。これら細胞診検体の肺がんコンパクトパネルの成功率は100%(38/38)でした。また、これら細胞診検体を用いた各種遺伝子異常(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET)の検出に関して、肺がんコンパクトパネルの結果は保険診療検査の結果と100%*3一致しました(図5、6)。FFPE組織を対象とした検査についても、同様の結果(成功率100%、遺伝子異常検出一致率100%)でした。
今後さらに症例を追加し、肺がんコンパクトパネルの信頼性を検証していく予定です。

*3 ROS1、BRAFについては全て陰性で一致

【EGFR遺伝子変異】

肺がんコンパクトパネル
(細胞診)
陰性陽性実施なし
保険診療陰性2500
陽性0130
実施なし000

【ALK融合遺伝子】

肺がんコンパクトパネル
(細胞診)
陰性陽性実施なし
保険診療陰性2200
陽性020
実施なし1400

【BRAF遺伝子変異】

肺がんコンパクトパネル
(細胞診)
陰性陽性実施なし
保険診療陰性1400
陽性000
実施なし2400

【ROS1融合遺伝子】

肺がんコンパクトパネル
(細胞診)
陰性陽性実施なし
保険診療陰性1400
陽性000
実施なし2400

【MET エクソン14スキッピング】

肺がんコンパクトパネル
(細胞診)
陰性陽性実施なし
保険診療陰性1300
陽性010
実施なし2310

【RET融合遺伝子】

肺がんコンパクトパネル
(細胞診)
陰性陽性実施なし
保険診療陰性1200
陽性020
実施なし2400

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