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社長ご挨拶/インタビュー

社長ご挨拶/インタビュー

 昨今の遺伝子を中心としたバイオテクノロジーの進歩は目覚ましく、それらを利用した新しい発見や研究成果などから、医療分野への応用が広がっています。新型コロナウィルスに対するPCR検査や、RNAワクチンの開発などは、まさにこれらの研究を応用した画期的なバイオテクノロジーの成果であります。今後も、これらの技術の臨床応用が世の中へ広がっていくと思われます。
 一方で、世界的な超高齢化社会を迎えるにあたり、我々は、労働力の減少、年金や社会保障の問題など、様々な社会問題を抱えています。特に、国民医療費は年々増加し、国の財政の多くを占めており、これを解決するためには、より効果的な個別化医療と、予防医療のための(病気にならないための)新しい診断ツール開発が期待されています。

 DNAチップ研究所は設立以来、ライフサイエンス分野を通じて、遺伝子やゲノムのエキスパートとして優れた技術開発をしながら、世の中に役立つ、研究開発、商品開発を行い、サービスを展開してまいりました。これまで、国産初のDNAチップの開発を始めとして、DNAやRNAなどの核酸を中心とした様々な遺伝子解析技術の開発を行い、さらにそれらの技術を用いた医学研究、臨床研究に携わってまいりました。そして、現在の主力ビジネスである研究受託事業において、主に大学・病院、製薬企業・食品企業等における研究分野のサポートビジネスに注力してまいりましたが、今後はそれに加えて、長年培った技術を結集し、新しいビジネス、診断事業を展開してまいります。特に、肺癌を中心とする遺伝子検査サービスを早期に立ち上げ、これまで以上に、品質と効率を高めることに努力し、患者にやさしい、安全で安心なサービスを展開してまいります。
 そして、情報化時代に即した、最新の技術を取り入れるとともに、独自技術開発により、がん・免疫疾患・感染症・生活習慣病・精神疾患等の個別化医療実現を目指し、これからの未病社会において、誰もが健やかに、幸せに暮らせるための診断ツール開発を行ってまいります。

 皆さまにおかれましては、DNAチップ研究所にご期待いただき、引き続き、ご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

社長インタビュー「人々の健康に貢献することが使命」

プロフィール

株式会社DNAチップ研究所
代表取締役 的場 亮

大阪大学大学院理学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、地球環境産業技術研究機構、奈良先端科学技術大学院大学、米国国立衛生研究所を経て、2006年DNAチップ研究所入社。
2010年代表取締役社長兼事業本部長、2012年代表取締役社長(現任)。
主な研究、論文:バイオマーカー開発、遺伝子ネットワーク解析、再生医療
Generation and Profiling of 2,135 Human ESC Lines for the Systematic Analyses of Cell States Perturbed by Inducing Single Transcription Factors. Cell Rep. 2020年 DELIVER (JACCRO GC-08) trial: discover novel host-related immune-biomarkers for nivolumab in advanced gastric cancer. Future Oncol. 2019年
A set of external reference controls/probes that enable quality assurance between different microarray platforms. Anal Biochem. 2015年
Dissecting Oct3/4-regulated gene networks in embryonic stem cells by expression profiling. PLoS One. 2006年

「層別化医療」が実現段階に

― DNAチップ研究所が世の中に提供する価値を一言で述べるならば、どのように表現しますか。

的場 : 「人々の健康に貢献すること」でしょうか。
研究所という名のとおり、もともと当社は研究者へ最新の技術・情報を提供し新しいサイエンスを推し進める役割としてスタートしました。これは今も継続しています。
そうやって培ったノウハウをもとに「より多くの、一般の方にも貢献できるものはないか」という視点でサービス化したものが、現在注力している「がん診断技術」です。
特に、当社が強みを持つ遺伝子情報の解析技術を人々の健康のために役立たせる。ここに価値や使命があると考えています。

― 遺伝子情報を使った診断技術が世に与えるインパクトについて、お聞かせください。

的場 : 従来は「この症状ならこの病気だから、この治療法」という画一的な診断で、当然ながらそこには限界があります。
しかし、国際的なゲノム解析プロジェクトも完了し、遺伝子の多様性が明らかになり、その遺伝子によって「個人個人の病気のなりやすさ、なっているならばその人にはどの薬が効くか」という判定までできるようになってきました。これは「精密医療」(別の言葉で言うと「層別化医療」)の実現に繋がるわけです。その人の遺伝的なバックグラウンドによって緻密に”層”を”別”ける、つまりカテゴライズして最適な治療法を選択できる糸口がはっきりと見えてきたと。当社が開発を進めている「肺がんコンパクトパネル」などがまさにそれにあたります。

― そういったこれまでにない診断技術を誰もが享受できる日が待ち遠しいところですが、見通しはいかがでしょうか。

的場 : 「EGFRリキッド(※1)」の薬事承認に引き続き、「肺がんコンパクトパネル(※2)」の薬事承認を得て、2023年2月から保険収載(健康保険適応)されました。
また、中長期的な話題として国をあげて日本人に特化したゲノム解析プロジェクトが動き出しました。解析が進めばそのデータを活用し、より日本人向けの遺伝子診断精度を向上させていくことができます。さらなる遺伝子検査サービスの開発へ向けて、追い風となる要素です。

― 2023年2月に上市された肺がんコンパクトパネルにつきまして、今後の展望をお聞かせください。

的場 : かなり精度の高い遺伝子検査を開発できたと自負しています。まずは、しっかりと日本の中で広く使っていただけるように活動を続けていきたいと思います。
最近では、他の癌種についても同様に複数の遺伝子を一括で調べる遺伝子検査の需要が高まっています。将来的には、今回の薬事承認の経験を生かして新たな遺伝子検査を開発、上市していきたいと思います。さらには日本発の非常に高精度な遺伝子検査サービスを海外へ展開したいと考えています。

予防医療で「健康寿命」を延ばしたい

― がんやうつ病の診断精度が上がり、どの薬が自分に合うかわかる――これは多くの人が望んでいることですよね。一方で、そういった病気になる前に手を打つ、いわゆる「予防医療」も、DNAチップ研究所では従来から掲げています。

的場 : 人は亡くなる前の10年ほど、なんらかの病気でつらい思いをすることが多いため、その時間を減らして、いわゆる「健康寿命」を延ばしたいんです。
病気の定義というのは、たとえば高血圧という言葉でもわかるとおり、数値の高低が基本になりますよね。これを一律に判定するのではなく、遺伝子情報の多様性や年齢・体重などあらゆる背景データも用いることで、総合的に“病気の気(け)”を察知できると考えています。
もちろん、ある意味で未来予測でもあるため「100%この病気に罹る」「こうすれば100%病気にならない」というものはありません。しかし、我々の得意とする遺伝子解析や診断技術の先には、この予測を極限まで正確にできる道筋が見えてきています。
病気になる前の状態を科学的に明らかにしていくという意味で、東洋医学の「未病」を定義づけようとしているのかもしれませんね。

― 遺伝子データを駆使した最新の西洋医学の行きつく先が、伝統的な東洋医学とも繋がるとは興味深いです。話題は変わって、2023年に入り、いよいよ新型コロナの終息も見えてきたように感じています。事業への影響はいかがだったのでしょうか。また新型コロナの教訓として今後のライフサイエンス分野へ与えられた課題などはありますでしょうか。

的場 : コロナ禍においては当初は多少の影響がありましたが、徐々に回復してきました。
遺伝子解析の需要は年々高まっていますので、研究受託事業についてはコロナ禍前の水準に戻ってくると思われます。また、新しく立ち上がった診断事業についても着実に検査数が増えてくると予想しておりますので、今年から来年にかけて売上高が大きく増加すると見込んでいます。
 今回の新型コロナに限らず、今後も新しい未知の感染症が世界中に広まる可能性があります。そのような状況になっても我々は遺伝子解析のスペシャリストとして科学的エビデンスに基づき、しっかりと対応していかないといけないと考えています。当社がワクチン開発や新薬開発に直接かかわることはありませんが、それらの開発を支援することで社会に貢献していきたいと思います。

未来の社会に必要なものを、我々の技術で

― 今も論文執筆をする現役の研究者でありつつ、上場企業の社長というのは自身としてどういう心持ちでいますでしょうか。大きな強みである反面、マネジメントや財務など別の分野でハードルもあったのではないかと思います。

的場 : DNAの多様性と同様に、世の中にいろんなタイプの社長がいたほうが良いのではないか、と自分では思っています(笑)
振り返ってみて幸運だったのは、代表就任と前後して大手企業出身の経験豊富な方々が社内にいてくれたことですね。いわゆる企業経営としての様々な現実を実地で学ぶ機会に恵まれたんです。
また、経験して実感したのは「課題がある→研究・開発などのアクションを起こす→外部からの評価を受ける」というプロセスは、研究の世界であろうと市場であろうと基本は変わらないということでした。さらに言うと、社長という立場は大学組織の教授とも近いポジションかもしれません。すべて自分で研究や実験するわけではなく、計画を立て、資金を調達して、人材を確保して……という意味で共通点がたくさんあると思います。

― その人材確保の面ですが、高度で専門的な分野ゆえに今後の展開に大きく関わるのではないでしょうか。

的場 : そうですね。研究者目線で考えますと、ベンチャーということもあり、大きなしがらみもなく自発的な研究がしやすい、力をつけやすい環境は魅力的だと思います。そう言ってしまうと「サイエンスがベースの会社だから、技術先行でマーケットを無視している」ともお叱りを受けそうですが、今の流行やニーズだけ見るのではなく、未来の人間社会に必要なものを我々の技術で提供していく。そこに意義があると思うのです。
広く採用活動をしてきたわけではないのですが、今後はそういったスタンスで研究開発を続けられるメリットを伝えていきたいですね。

(※1)EGFRリキッドとは:
肺がんの患者さんを対象にEGFR遺伝子の変異があるかないかを調べる検査です。
EGFR遺伝子はがん細胞の増殖に関係するといわれており、肺がんでは、この遺伝子の一部に変異がみられる場合があります。
変異がみられた場合に効果を発揮する治療薬があり、その治療薬が適しているかどうかを判定することが検査の目的となります。

(※2)肺がんコンパクトパネルとは:
肺がんでは、EGFR遺伝子のほかにも、細胞のがん化に関係するといわれている遺伝子が見つかっており、それぞれの遺伝子に特化した薬がすでに複数開発されています。
しかし従来の検査では、1つの遺伝子毎に1つの検査を行うというものでした。
「肺がんコンパクトパネル」は、EGFR遺伝子のほか、“すでに治療薬が対応している遺伝子”、そして“近い将来上市される治療薬が対応する遺伝子”を同時に検出する高感度な検査です。そのため、最適な治療薬の選択に役立つと考えられます。
2023年に薬事承認され、実際の医療現場で使用され始めています。

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